こんにちは、OFF株式会社の代表ヨーダです。年の瀬に当たり、2023年を振り返ると感慨深い一年でした。2023年、75年ぶりに大麻取締法が改正されました。この大変化によって大麻という日本人にとって古くて新しい植物の可能性が大きく解き放たれます。農作物としての大麻が社会に与えうる具体的なインパクト、そして、私たちの会社がこのインパクトにどのようなビジョンやポジションで貢献していくのかについて今回は書いていきます。
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ヘンプのインパクト
75年ぶりの大麻取締法改正
冒頭で触れたたように、2023年12月、大麻取締法が75年ぶりに改正されることになりました。以下は厚労省から出された改正概要です。ここに今回の法改正のエッセンスが詰まっているので気になる方はじっくり読んでみてください。
激減した大麻農家
かつて37,000人もいた大麻農家はいまや27名まで落ち込み、栽培面積も5000haから7haまで激減しました。
今回の法改正の大きなポイントはまず大麻取締法という名称がそもそも変わることでしょう。大麻取締法は、「大麻草の栽培の規制に関する法律」へと名称を変えます。「取締」という大麻に対するネガティブなワードを取り除き、ポジティブなイメージを醸成するきっかけになりそうです。大麻に含まれるCBDという鎮静成分を使った難治性てんかん患者向けの薬が合法化されることや大麻の所持や譲渡などだけでなく、大麻の使用も罰していくよというのが世間でも報道されているざっくりとした法改正内容です。
今回、特に言及したいのは改正概要の3つ目の部分です。「大麻草の栽培に関する規制の見直しに係る規定の整備」という箇所です。これによるとこれまで1種類だった大麻栽培免許が2種類になります。今後は栽培する大麻草内に含まれるTHCという成分の量によって大麻の種類を分けられます。THCの量が基準値以下の場合は第一種大麻草採取栽培免許を、基準値以上の場合は第二種大麻草採取栽培免許が必要になります。THCの含有量によって大麻を区分する方法はグローバルの新しい潮流であり、そこに日本も後追いで乗っかるということです。このTHCが基準値以下の大麻のことを産業用大麻 = ヘンプと呼びます。今回この記事ではこの「ヘンプ」の登場によって起こる大変化について書いていきたいのです。ちなみに日本ではTHCの基準値はまだ設定されておらず、2024年に政令にて公表される予定です。
ヘンプルネサンス
2014年にアメリカではヘンプ農業法が制定され研究目的でのヘンプ栽培が日本に先駆けて解禁されました。そして、2018年には商業用のヘンプ栽培も解禁され、市場は大きく拡大しています。日本にもかつて大麻産業と文化が根付いていた歴史があったにも関わらず、これまでは麻薬として厳しく取り締まられてきました。ところが、今年2023年に大麻取締法は改正され、ヘンプ栽培が日本でも解禁されます。全世界的なヘンプルネサンスのトレンドが日本にも押し寄せてきます。
次の1章では生物学的なヘンプの基本情報を提供します。教科書的な内容です。2章は農作物としてのヘンプについて農家の目線で知っておきたい基本的な情報を記載しています。詳細ではありませんが、ざっくりした農作業マニュアルとしてもお使い頂けます。実務的な内容です。そして3章は実際にどれくらいヘンプのニーズが社会にあるのか、ヘンプを農家として育てるとどれくらいの収益が得られるのかを書いています。ビジネス的な内容です。4章は今回の法改正、特にヘンプ栽培に関して、具体的にどう規制が変わるのかを解説しております。法律的な内容です。最後に、5章はヘンプと私たちOFF株式会社がこれから社会に与えうるインパクトについて私見を述べています。
1章から順番に読んで頂く必要はありません。ヘンプについてその実態をよく知らない人はいきなり5章へ進み、ヘンプのポテンシャルを感じ取って頂ければ幸いです。この記事をきっかけに大麻産業や文化に多くの方が参画して頂けるのであれば、このうえなく幸せです。
植物としての大麻
さて、まずはじめにヘンプを含む大麻の植物としての基本情報から説明します。
大麻の様々な呼称
大麻にはいろいろな呼び方があります。日本では、大麻草、大麻、麻などと呼ばれたり、英語圏ではカナビス、マリファナなどと呼ばれたりしています。学術的にはカンナビス・サティバ・リンネ(Cannabis Sativa L.)と呼ばれており、この章ではこのカンナビス・サティバ・リンネ(以下、大麻)について詳しく説明していきます。
分類学上の大麻
大麻は植物分類学上はバラ目アサ科アサ属アサ種の植物です。バラ目の植物としてはイチゴ、リンゴ、ナシ、モモ、アーモンド、イチジクなどがあります。アサ科の植物にはビールの香り付けの材料にもなるホップがあります。
上の画像はホップと大麻の写真ですが、どうでしょうか、分類学的に近い存在ということもあり非常に見た目が似ていますね。次に大麻の植物学的な特徴についてみていきます。
大麻は一年生の草本です。なので、種を播いて、実をつけ、種を残して枯れるまでの期間が1年以内の植物です。また、大麻は基本的には雄と雌の個体が別々に存在する雌雄異株(しゆういしゅ)の他家受粉植物であり、双子葉植物です。EUなど一部地域では、雌雄同株の大麻が育てられています。雌雄異株の品種と異なり、一本の茎の上部に雄の花と下部に雌の花が咲きます。
地理的分布
次に大麻の地理的な分布についてです。
日本にも自生している大麻ですが、南極大陸を除く全ての大陸、熱帯、亜熱帯、温帯という気候区分、海抜から3000メートルの標高の高地まで幅広い地域で栽培されています。野生種は、ユーラシア大陸と北米の北緯30度から北緯60度の間の地域でよく見かけ、熱帯でみかけることは稀です。
原産地
最後に大麻の原産地域について、最新の研究を紹介します。
最近のゲノム解析により大麻は東アジアを原産地域であることが明らかになりました。また、考古学的な研究により日本では縄文時代の9000年前にすでに大麻栽培をしていた証拠があります。以上が植物としての大麻の基本情報です。次の章では農作物としての大麻に関してみていきましょう。
農作物としてのヘンプ
人類は大麻を大昔から農作物として生活の中に取り入れてきました。そこで、この章では農業の観点で、大麻について深ぼっていきます。
栽培方法
ヘンプ栽培には露地栽培、屋内栽培、温室栽培の3つの方法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
露地栽培は、自然エネルギーのもとで栽培するためエネルギー効率が高く、繊維や種子の生産に適していますが、異なる品種間の交配のリスクや天候リスクがあります。
屋内栽培は、カンナビノイドの生産に適しており、環境制御が可能ですが、エネルギー消費とCO2排出が高いのが問題です。
温室栽培は、屋内外の中間的な立ち位置の栽培方法で、多くの環境要因が制御可能であり、自然光を用いた栽培のためエネルギー面でのメリットがありますが、建設コストと運営コストがかかります。
ヘンプ栽培は、栽培地域や用途に応じて異なる技術と知識が必要で、特に屋内と温室栽培では病原菌やCO2レベルなどを厳しく管理する必要があります。
栽培用途
大麻は吸って使うものというイメージが強いかもしれませんが、そのような用途は大麻の多様な用途の一部にしかすぎません。どんな用途で大麻を使用するのかによって、ヘンプの必要な部位(葉、花、茎、種など)は異なり、播種する大麻の品種も変わってきます。
ヘンプの用途として現在一番メジャーなのは繊維です。日本でも古くから伝統神事の中で使用されてきた大麻ですが、例えばしめ縄で使われている大麻は繊維のための大麻です。この用途でのヘンプは大麻の茎部分を活用します。
次に紹介する用途は食用のヘンプです。日本で馴染みのある製品ですと、七味がありますが、七味の中には食用のヘンプが含まれています。麻の実です。こちらはヘンプの種の部分を活用しています。食用としてのヘンプは人間だけでなく、家畜の飼料にもなります。
3つ目の用途はここ最近になって注目されている薬用のヘンプです。ヘンプには多様な薬理成分が含まれますが、その中でもCBDやTHCと言われるカンナビノイドが特に注目されています。カンナビノイドは主に大麻の花穂や葉上のトリコームという樹状突起状に局在します。ちなみにカンナビノイドはいわゆる「植物二次代謝産物」です。植物二次代謝産物には主にニコチンやカフェインのようなアルカロイドとカテキンやイソフラボンなどのフェノール性化合物、そして、テルペンなどのテルペノイドの3つに大別されます。カンナビノイドはフェノール性化合物に分類されます。
繊維、穀物、CBD。この3つが主要なヘンプの用途です。
ヘンプはこれらの用途以外にも多様な用途があります。工芸作物としてのヘンプの多様な側面は以下の通りです。
これら以外の用途も実はたくさんあります。例えば、プラスチック、建材、燃料など。ある研究によると25,000種類以上の商品にヘンプは活用されているようです。
肥料・整地
種を植える前にまずは土作りです。大麻は深根作物なので、表土が浅い土地では十分に生育しません。農地をブラウで深く耕し、播種前にハローで土塊を細かく砕きます。整地前に肥料をまきます。
1ha当たり10〜15tの収量を見込む場合、施肥量の目安は以下の通りです。
・窒素:100〜150kg
・リン酸:50〜75kg
・カリウム:200〜300kg
・カルシウム:150〜200kg
・マグネシウム:40〜60kg
種選び
大麻にはいろいろな品種があるので、種選びも重要です。
日本では、品種登録されており、商用利用可能な品種は1つしかありません。「とちぎしろ」という品種です。
少し昔の日本では赤木、白木、青木という在来種が存在しましたが、THCが含まれることから、盗難が問題になっていました。そこで九州大学薬学部が発見した佐賀県の在来種と白木を交配し、新品種を育成する試験を1974年から栃木県の農業試験場にて開始しました。1982年に種苗登録を完了し「とちぎしろ」が誕生しました。とちぎしろの特徴は以下の通りです。
とちぎしろは繊維採取用の品種のため、大麻栽培の多様化を加速させるならば、とちぎしろ以外の品種の開発や輸入が必要になってきます。世界で有名なヘンプの品種は以下の通りです
ヘンプの繊維生産には雄株と雌株が使用されますが、雄株が望ましいと言われています。繊維の量を最大化するためには、開花が遅い品種が好まれます。
食用のヘンプ種子の栽培には、受粉のために限られた数の雄株を持つ雌性優位の植物集団または雌雄同株の品種が好ましいです。種子生産用のヘンプは短い茎、大きな種子頭部、高い枝密度が特徴であり、繊維用ヘンプとは対照的です。
CBD生産用のヘンプ栽培には、花の収量を低下させる可能性のある受粉を避けるため、純粋な雌性集団が最も望ましいと言われています。 繊維用に栽培されるヘンプよりも背が低く、小さく葉の多いように栽培され、1ヘクタールあたり最大400本程度と密植度は低くなっています。
ちなみに、主にヨーロッパの育種家たちは、雌雄異株の品種に比べ、単位面積あたりの穀物収量と茎の収穫量が多い雌雄同株の品種を選抜してきました。雌雄同株のヘンプは、繊維、穀物の収穫など複数の目的で1株のヘンプを栽培する、全草利用を目指す生産者に最適な品種です。
播種
整地が終わるといよいよ種まきです。以下は各用途ごとの播種関連の情報の整理です。
播種量 | 播種時期 | 播種密度 | |
繊維 | 180〜200粒/㎡、45kg/ha | 3〜4月 | 10万本/ha |
種子 | 40〜80粒/㎡、10〜20kg/ha | 4〜5月 | 2500〜4000本/ha |
CBD | 1〜3粒/㎡、200〜600g/ha | 5月〜 | 400本/ha |
病害虫防除
ヘンプは病害虫のリスクを心配する必要がほとんどなく、圃場管理コストが低いことで有名です。
土壌燻蒸剤、殺虫剤、除草剤を一切使う必要がありません。
収穫
繊維採取の場合は7〜8月に収穫。種子採取の場合は9〜10月の種子が登熟する頃に収穫。CBD生産用ヘンプの栽培は繊維用ヘンプの栽培よりも難しく、収穫は播種後100日から120日の間に行われますが、品種や植え付け時期、地域によって異なります。
欧米ではヘンプの収穫用の大型のコンバインを使用した大規模機械体系が確立しています。例えばオランダのグロエノールド社は茎、種子、葉を同時に収穫するためのコンバインを開発し、販売しています。このコンバインには2つの刈り取り機構を装備しており、トップヘッダーでは種子と葉を、アンダーヘッダーでは茎を収穫できます。このコンバインは自動で動くため日夜稼働し、収穫効率は1時間に2~2.5haです。
ヘンプの経済性
この章では、ヘンプのグローバルでのマーケットサイズ、マーケットの成長性、ヘンプビジネスの収益性について詳しくみていきます。
グローバルのヘンプマーケット
ヘンプ関連のビジネスは現状グローバルでどのくらいのサイズなのか、そして今後どれくらい成長していくのかについてみていきます。ヘンプの生産に関する情報は、FAOデータベースが参考になります。繊維用と種子用のヘンプに関する収穫面積と生産量に関して知ることができます。
まずは繊維用のヘンプに関するデータからみていきましょう。2019年のグローバルの総生産量は約20万トン、総面積は約8万ha、平均収量は約3トン/haです。
次に種子用のヘンプに関するデータからみていきます。2019年のグローバルの総生産量は約15万トン、総面積は約3万haです。
ヘンプはグローバルでは貿易可能な商品です。HSコードと言われる世界統一の商品コード番号が既に作られています。このHSコードに基づく重要な統計データを紹介しておきます。2020年のデータです。
日本は、主に中国やカナダより播種用ではなく、食用のヘンプシード(HS:HS 1207.99.010)を2015年に236万ドル(約800トン)、2020年には210万ドル(約650トン)を輸入しています。
CBD用のヘンプに関するグローバルな統計データを見つけることができなかったため、代わりにアメリカはUSDAによるヘンプの生産関連のデータを紹介しておきます。
以下は2022年のデータです。
・CBD用ヘンプ:678万ポンド(66%減)
・種子用ヘンプ:243万ポンド(44%減)
・繊維用ヘンプ:2100万ポンド(37%減)
少し古いですが、2017年のアメリカにおけるヘンプのマーケットサイズは以下のような構成になっています。
CBD用のヘンプの生産はこの10年くらいの間に起こった現象ですが、急拡大しているマーケットだということがよく分かります。
ヘンプビジネスの成長性
ヘンプマーケットが今後どのように成長していくのか、UKとアメリカの予測を紹介します。
まず、UKには「UK-30」というプロジェクトが存在し、これは2030年代までにヘンプビジネスを成長させるための取り組みです。2022年時点で800haしかなかった栽培面積を2031年までに100倍まで大きくしていくビジョンを描いています。そして、ヘンプの用途として建築資材としてのヘンプのマーケットの拡大を目論んでいるようです。
次にアメリカの予測を紹介します。こちらは民間の大麻特化の経済アナリスト・Whitneyによる予測です。
2018年にファームビルが成立し、その翌年の2019年にはヘンプの栽培面積は52万5000エーカーまで拡大しました。2022年には大幅に縮小し7万エーカーを下回りました。まだまだヘンプの需給のバランスが安定しないアメリカですが、今後5年以内に100万エイカーを超える規模まで拡大すると予測しています。
ヘンプビジネスの収益性
ヘンプ栽培事業で想定される損益(P/L)について以下のスプレッドシートにまとめました。あくまで機械式のヘンプ農業が発達しているアメリカの事例であることをご了承ください。
ヘンプの主要な3つの用途毎(繊維/穀物/CBD)のP/Lについて以下のシートからご確認いただけます。
詳細は以下のスプレッドシートを見て頂きたいのですが、簡単にP/Lの解説をします。
まず、ヘンプの収益は「単位面積あたりの収量」と「単位重量あたりの価格」により決まります。
単位面積の単位はエイカー、収量の単位はポンドです。収益計算の式は以下の通りです。
収益 =エイカー x (ポンド/エイカー) x (USD/ポンド)
単位重量あたりの価格は、ヘンプがトウモロコシや麦のようにコモディティなため、日々刻々と変化します。USDAが定期的に出すNational Hemp ReportやHemp Benchmarksのインデックスを参考にしてみてください。
次に費用に関してです。費用は変動費と固定費にまず分解します。
変動費には、石灰、窒素、リン、カリウムなどの肥料代がかかります。そして、播種用の種子やクローン、場合によってはカバークロップという除草用の種子も合わせた種苗代もかかります。さらに、農作業にかかる労務費、農具や農機の修理代、農機の燃料費、ヘンプ栽培にはライセンス取得や収穫物のTHC検査費、農機や土地を購入するための借り入れの返済代もかかります。
固定費は基本的に農機や土地の費用だと思ってください。
繊維と穀物用のヘンプのP/Lは2018年度、CBD用は2020年度の各種数値の前提(ヘンプの価格や収量など)をもとに収益と費用を試算しています。ヘンプ栽培に関する科学技術の進展に伴い、これらの前提は変化していくことが予想されます。これらのP/Lは、実際に栽培事業を始める前に収益と費用を見積もるための参考に使用してください。特定の農場を代表するP/Lではありません。P/L内の各種単位はアメリカで標準的な単位に基づき計算されています。栽培される地域に合わせて単位換算して頂ければと思います。
▼単位換算の参考
・1エイカー = 0.4ヘクタール
・1ヘクタール = 10,000㎡
・1ポンド = 453.5g
ヘンプの規制状況
次にこの章ではヘンプ農業の観点に絞って法改正のポイントについて解説します。
利用用途の拡大
これまで基本的には伝統的な目的のみでしか大麻栽培は認められませんでした。
これからは幅広い用途で大麻を使用していくことが可能になります。
つきましては、これまで大麻の使用できる部位が茎と種に限られていたところを葉や花も使用できるようになります。いわゆる部位規制が撤廃されます。
多様化する栽培免許
これまで大麻栽培免許は1種類しかありませんでしたが、これからは2種類に変化します。低THC品種を栽培する場合は1種免許、高THC品種を栽培する場合は2種の免許が必要になります。2種の免許は主に製薬会社に付与される予定ですが、低THC品種のいわゆるヘンプの免許取得のハードルは下がりそうです。1種の免許は大麻草の製品の原材料、2種の免許は医薬品の原料の目的で大麻を栽培することができます。
また、これまで大麻栽培免許は各都道府県の薬務課が付与しており、免許を付与する基準が各都道府県ごとにまちまちでした。今後は、1種に関しては引き続き各都道府県の薬務課が付与しますが、その付与基準は統一化されます。そして、2種に関しての窓口は厚労省になる予定です。
播種用種子の生産・流通管理
大麻栽培を始める上で重要なのは「播種用の種子をどこで手に入れるか」です。これまでは国内での種子の譲渡も原則禁止されており、海外品種の輸入も禁止状態でした。今後は播種用の種子の輸入と国内流通が認められます。
大麻取締法のこれまでとこれから
大麻取締法のこれからとこれまでの比較表です。主たる変化をまとめています。
ヘンプの可能性
この最後の章では、ヘンプが世界では再評価されているということを、そして日本でも近い将来再評価され、社会的に欠かせない植物になることをお伝えできればと思います。まずはじめに、欧米におけるヘンプのCBD以外の活用事例をご紹介します。ヘンプをインプットした時のアウトプットの1つがCBDです。ヘンプはCBD以外の幅広い商品の原材料になりえます。そのことを強くお伝えします。
欧米の先進事例
食物としてのヘンプ
食物としてのヘンプは主にヘンプの種子を食します。ヘンプの種子はその優れた栄養配分からスーパーシードとして日本でもすでに一部の健康意識の高い人たちには好まれています。
ヘンプの種子に含まれる油脂はリノール酸(オメガ6系脂肪酸)とα-リノレン酸(オメガ3系脂肪酸)が3対1という理想の比率で構成されており、オメガ3系脂肪酸の優れた供給源です。また、ヘンプの種子の胚芽部分には必須アミノ酸がすべて含まれているため、良質なタンパク源にもなっています。さらに、植物ステロールやトコフェロール(ビタミンE)といった脂溶性成分も豊富に含まれています。そして、ヘンプの特有成分として鎮痛作用や抗炎症作用を持つカンナビノイドやカンナビシンというポリフェノールを含みます。ヘンプシードは殻を取ってヘンプナッツにしたり、搾ってヘンプシードオイルにしたり、水に浸して細かく砕いた後に撹拌しヘンプミルクにして食す事ができます。
繊維としてのヘンプ
次に繊維としてのヘンプについてです、繊維用途では主に茎の部分を活用します。繊維としてのヘンプは歴史も長く、現代人にとって最も馴染みのある用途かもしれません。リーバイスやパタゴニア、日本では無印のような大手アパレルメーカーも以下のようにエコな素材として好んで利用しています。
ヘンプは特に脱炭素文脈で注目されています。ヘンプは100日草とも言われ播種後100日で茎の長さが3〜4mに成長すると言われています。その大きな成長性からも空気中の二酸化炭素の吸収や固定に一役買っています。ヘンプはネガティブカーボンな農作物です。具体的には、ヘンプ畑は、1haあたり22〜44トン生産され、繊維1kgあたり3.7kgのCO2を吸収します。つまり、ヘンプ畑は9〜15トン/haのCO2を吸収します。
IEAは次のように先進国のカーボンプライシングを予想しています。2030年にCO2は1トン130ドル、2050年に1トン250ドルと言われています。仮に日本の荒廃農地28万haでヘンプを栽培したとします。すると、2030年のヘンプ栽培による脱炭素の経済的価値は28万ha x 10トン/ha x 130ドル/トン =47億円、2050年には91億円と計算できます。
ヘンプの環境価値をもっと広く知るために同じ繊維のコットンと比較してみましょう。コットンは1haあたり5トン、繊維1kgあたり1.7kgのCO2しか吸収せず、ヘンプは繊維1kgあたり1.1平方メートル、綿は3.4平方メートルの土地が必要です。また、コットンは繊維1kgあたり約10,000リットルの水を必要です。平均降雨量は5,000リットルで、綿繊維1kgあたり5,000リットルの灌漑が必要です。ヘンプは繊維1kgあたり約2.000リットルの水しか必要としないので、自然降雨で容易に賄えます。収穫までに必要な水量が少なく、その意味でも環境に優しい植物です。
さらに、ヘンプには地中の有害物質を浄化する作用もあります。原発被災地のチェルノブイリにPhytotech社はヘンプを植え始め、土壌からのかなりの放射性成分を除去したことを発見しました。ヘンプは現在、農薬で汚染された土壌や酸性雨で酸性化した土壌を回復させるためにも栽培されています。ヘンプを植えることで、土壌のpHバランスが回復します。
このように、ヘンプはエコな素材として注目されています。ヘンプ繊維は、特に抗菌性や消臭性の観点でも評価されています。
バイオプラスチックとしてのヘンプ
次は、ヘンププラスチックについてです。ヘンプの繊維部分を活用してできます。すでにベンツやBMW、アウディ、ロールス、ポルシェ、ポールスターなどの高級車の内装材として採用されています。
ヘンプは天然繊維強化樹脂でNFRPに分類され、一般的なプラスチックはガラス繊維強化樹脂のGFRRに分類されます。NFRPとしてのヘンプはGFPRと比べ軽く、それでいて強度も高く、コストが低いというのが特徴です。世界ではカーボンファイバーよりもサステイナブルな素材として注目を集めています。
建材としてのヘンプ
ヘンプ製の建材、ヘンプクリートもヘンプの繊維部分を活用します。建設業界がサステイナブルな建材として注目しており、2022年10月にはアメリカにて住宅建設への使用がすでに承認されています。ヘンプクリートはヘンプの茎の皮を剝ぎ乾燥させた苧殻(おがら)に石灰などを混ぜ合わせることで作られます。耐火性や抗カビ性、吸湿性があり、壁や床システム、天井などの断熱材として有用と評価されています。ヘンプの耐火性に関してはこちらの動画をご覧ください。
今日は大麻を焚いてみましたw😆
— Ryujiro Oyabu (@yaburyu) September 4, 2022
この後60分燃やし続けたけど素手で掴めるくらいにしか熱くならないのはビックリ😲全く燃えない#ヘンプクリートブロック pic.twitter.com/zsxscFPFsa
ヘンプクリート以外の形態でもヘンプは建築や住宅改修に広く使用されています。木材のように加工したヘンプウッドは従来のオーク材程度の耐久性を持ち、非木材資源としてベンチや棚、テーブルなどに使用することが可能です。
また、ヘンプシードオイルをフローリングを仕上げるためにも利用できます。国内でも北海道にできたアウトドアサウナの素材としてヘンプクリートが活用されている事例があります。
バイオマスとしてのヘンプ
ヘンプは次世代のバイオ燃料としても注目されています。ヘンプは急速に成長する植物で、高い植栽密度に耐えることができ、1ヘクタール当たりの総バイオマスは、ジャイアント・ミスカンサス、ポプラ、スイッチグラス、ヤナギなど他の資源作物と同程度です。そして、ヘンプが他のエネルギー作物より特に優れている点は、ヘンプの靭皮繊維におけるセルロースとヘミセルロースの濃度が高いことです。
これらの特徴から、大麻は生化学的バイオ燃料の生産や温室効果ガスの緩和において、平均を上回る資源作物となる可能性があります。アメリカのAtlantic Biomass社は、ヘンプバイオマスをSAF(持続可能な航空燃料)にするプロジェクトを推進中です。すでにヘンプバイオマスによるSAFの効果や経済性に関する研究は終わっており、現在は効率化と商業化が重要なゴールのようです。
日本流の大麻のノーマライゼーション
欧米の先進事例を紹介してきましたが、次に紹介しますのは日本における大麻の伝統的な利用方法についてです。広辞苑で大麻を調べると以下のような結果が出てきます。
【大麻】たいま ①伊勢神宮および諸社から授与するお札。 ②幣(ぬさ)の尊敬語。おおぬさ。 ③麻(あさ)の別称。 ④アサから製した麻薬。栽培種の花序からとったものをガンジャ、野性の花序や葉からとったものをマリファナ、雌株の花序と上部の葉から分泌される樹脂を粉にしたものをハシシュといい、総称して大麻という。喫煙すると、多幸感・解放感があり、幻覚・妄想・興奮を来す。 |
①と②の事例は日本土着の宗教である神道に端を発する大麻に関する解説です。われわれ日本人にとって大麻とは神事に関わる道具だったのです。江戸時代後期には全世帯の9割が神宮大麻を受けていたようです。大麻を神棚に安置し、家族で拝していました。平成から令和に年号が移行した2019年。新天皇が即位する大嘗祭(だいじょうさい)では日本の伝統にそって大麻の織物の麁服(あらたえ)が供えられました。
このような歴史的な事実が日本において大麻をノーマライゼーションしていく上で重要だと私たちは考えています。欧米のようにエイズや戦争の悲劇を緩和するために大麻を解禁していく未来は日本ではあまり想像できません。
実際にこのような日本文化や歴史に即する形でヘンプの振興を推進する業界団体が存在します。HIDO(麻産業創造開発機構)という一般社団法人です。三重県を拠点に産官学が密に連携し、日本の伝統と喫緊の社会課題である脱炭素を標榜し、ヘンプに関する規制緩和を推進してくれています。伝統の復興を推しながら下記のような科学技術に関する研究の方針も示しており、あまり世間では注目されていませんが、今後国内の大麻研究において重要な役割を果たしていくでしょう。
日本流の大麻のノーマライゼーションには神道や天皇といった日本固有の文化に着目する以外のアプローチもあります。漢方や生薬に着目したアプローチです。世界最古の医学書である神農本草経に上品、中品、下品の三段階で漢方を紹介しており、その中でヘンプは生命を養う目的の養命薬で、無毒で長期服用可能な健康薬として説明されています。日本でも薬局方と言われる医薬品に関する品質企画書に印度大麻草、印度大麻エキス、印度大麻チンキが1886年から1951年に収載され、医薬品として使われていました。ヘンプの部位ごとに以下のような効果を期待できるようです。
名称 | 薬効 |
麻子仁 | 便秘、疲労回復、血流改善、関節痛、筋肉けいれん、利尿、口の乾き、身体腹部痛、虚弱体質、月経不順、嘔吐、切り傷、火傷、膿耳 |
麻賁 | 鎮痛、鎮けいれん、リウマチ、関節痛、筋肉痛、けいれん、不眠症、ぜんそく |
麻子仁(ヘンプシード)はいまでも腸に効く漢方として現在も購入できます。
私たちが目指す大麻の未来
現状、日本では漢方としての大麻は麻子仁しか使用できません。花穂部分の麻賁(まふん)は使用できません。部位規制は撤廃されるものの、改正後の大麻取締法においても大麻の形状を有する大麻の花穂部分の使用はできないようです。実は、これは麻薬に関する単一条約という国際条約違反です。大麻の花穂部分であり、大麻の形状を有する麻賁も漢方として使用できるよう日本も規制緩和するべきだと考えています。
THCの上限値があっても構いません。まずはヘンプフラワーの使用を生薬の枠組みで解禁し、気軽に活用できる未来を早く作りたいと考えています。CBDが大麻に関して考えるきっかけを多くの人に与え、大麻に関する認識を改めていく契機になったように、ヘンプフラワーの合法化は大麻に関するスティグマをさらに取り除き、大麻をラディカルにノーマライゼーションしていくでしょう。ちなみにヨーロッパではハーブ製剤(大麻の花穂そのもの)が2000年代初頭から作られ、処方されてきました。植物とはいえ大麻そのものを製剤化するにあたって、ぶれなく一定量のカンナビノイドを常に含む標準化した大麻を栽培する必要があります。そのためにインドアで精密に大麻を栽培する技術などが20年以上前から開発されてきました。
私たちOFF株式会社は次のようなビジョンを持って、来年以降も事業に邁進していきます。
大麻を育て、使用する前に自分の体質にあった大麻をまず知ります。アメリカにはEndocanna Health社のようなDNA検査サービスが存在します。被験者の遺伝的特徴をもとにどのようなTHCやCBD、テルペンのプロファイルの大麻がマッチするか診断してくれます。DNA検査後、自分にあった大麻の品種のシードを手に入れ、自宅のベランダや庭で自由に育てるのです。収穫した大麻は自宅で即座に分析機でカンナビノイドやテルペン量を分析します。分析後、収穫した大麻を油に搾って使ってもよし、乾燥してボングやパイプで喫煙してもよし。セルフケアに大麻を気軽に使用し、ウェルビーイングを深めていける。こんなビジョンの実現を目指して私たちは進んでいきます。
セルフメディケーションの時代の代名詞に大麻はなりうると思います。
最後に話は少しそれます。イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンはうつ病に対して少なくとも2種類の抗うつ剤の服用よりもマジックマッシュルームに含まれるシロシビンが症状緩和に効いたという研究結果を発表しました。後を追って、アメリカでも、19年にはFDAがシロシビンを大うつ病性障害(MDD)に対するブレイクスルーセラピーとして承認しました。私たちは今年アメリカはオレゴンに子会社を設立しましたが、オレゴン州では20年11月、シロシビン治療の承認をめぐる住民投票が実施され、賛成多数で可決しました。州単位でのシロシビンの使用の合法化はオレゴンが初です。
今後、人間は大麻だけでなくあらゆる植物のポテンシャルを解放し、環境負荷の少ないプラントパワードな社会を作っていくでしょう。
2023年の締めということもあり、かなりの長文記事になってしまいました。この記事を通して、弊社に少しでもご興味を持って頂けた方は以下の採用フォームや問い合わせフォームよりお気軽に連絡を頂けると幸いです。来年2024年も何卒よろしくお願いします!
過去記事も合わせて是非ご覧ください。
以下では大麻が人類のウェルビーイングの向上にどのように繋がるのか。
また、以下では、2023年にアメリカはオレゴン州に会社を設立することになった背景について書いています。
採用:大麻スタートアップで働きたい方を募集中
フルタイム・副業・インターンで手伝ってくれる方を募集中です。
・大麻という急成長市場の中で商品に愛のある仲間と協働できる
・「0 → 1」を作るスタートアップ文化を経験できる
・商品を製造して販売するまでを一気通貫で学べる
・世界を舞台に事業ができる
少しでも共感いただけましたら、ぜひ以下よりご連絡ください!
参考文献
・Commodities at a glance: Special issue on industrial hemp
・New York State Cannabis sativa L. Production Manual
・Hemp Production Information Center A Place to Catch up on Industrial Hemp Publications
・University of California – Agronomy of Hemp – Production Costs
・Hemp Resource Center at Colorado State University
・FAOSTAT
・EIHA
・HEMPit
・Hemp-30 Phase I Final Report
・Growing-Hemp-for-the-Future
・National Hemp Report by USDA 2023-04-19
・The Future of Hemp is Bright. But is the Industry Ready?
・A high-quality reference genome of wild Cannabis sativa
・千葉県沖ノ島遺跡から出土した縄文時代早期のアサ果実
・大麻規制検討小委員会のとりまとめ参考資料(案)について
・大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律(八四)
・HIDO(麻産業創造開発機構)
・北海道ヘンプ協会
・麻の総合利用研究センター
・産業用ヘンプの世界の最新動向 by 農業経営者
・大麻(ヘンプ)について
・大麻大全
・日本人のための大麻の教科書 「古くて新しい農作物」の再発見
ディスクレーマー
この記事は日本国内での大麻の所持や使用などを促す記事ではありません。
大麻の所持などに関してはお住まいの地域の法律に従ってください。
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